私は卸売業を営む父から会社を引き継いだ2代目で、その会社の代表取締役社長です。会社の自社株については、父が存命中に有していた分は数年前の父の死去により後継者である私が相続しています。しかし、その当時の父のシェアは約3割に過ぎず、それは存命中に父が相続税対策として110万円を少し上回る金額で私や弟、妹、孫が産まれてからは各2人の孫も合わせて計9人に毎年贈与してきたからです。親族のシェアは各家族が平等に2割ずつ有し、計6割に上っていました。そして、残りの1割は創業時からの会社元役員や一部取引先にも配当還元価額で自社株を渡しており、各持分は少額ですが、約30人に渡ってしまっています。父は後に名義株とされないよう、売買や贈与の契約書、会社の議事録などの証拠書類を全て残していました。弟や妹については、会社への関与が全くなく、父から存命中に受けている贈与も父の言うままに引き受けていました。しかし、父の相続時に、自社株の評価が高額であることを知ってから、自らが株主であることへの意識が生まれています。弟は決算書の閲覧を求めたり、株主総会において反対意見を主張したりして、私の意思が通らない場合も出てきました。そして、妹は自分の子供を医大に進学させるための資金を作るため、高額で自社株を買い取ってほしいと言い始めており、私1人が買い取るのは難しく、一部を会社で金庫株で買い取りました。会社法において、金庫株で買い取る場合は、他の株主にも買取価格を通知しなければならなかったようで、そんなに高額で買い取ってもらえるならば自分もと次から次へと元役員が手を挙げてきてしまいました。株式の分散により、父の相続税の負担をその時点では軽くできたかもしれませんが、高額で買い取るよう求められればそれ以上にコストがかかりますし、分散してしまった株を買い集めるのは相手のあることですので大変苦労しています。株式の分散によって後継者の世代で問題が発生することは、珍しくないのでしょうか?
Q.
私は卸売業を営む父から会社を引き継いだ2代目で、その会社の代表取締役社長です。会社の自社株については、父が存命中に有していた分は数年前の父の死去により後継者である私が相続しています。しかし、その当時の父のシェアは約3割に過ぎず、それは存命中に父が相続税対策として110万円を少し上回る金額で私や弟、妹、孫が産まれてからは各2人の孫も合わせて計9人に毎年贈与してきたからです。親族のシェアは各家族が平等に2割ずつ有し、計6割に上っていました。そして、残りの1割は創業時からの会社元役員や一部取引先にも配当還元価額で自社株を渡しており、各持分は少額ですが、約30人に渡ってしまっています。父は後に名義株とされないよう、売買や贈与の契約書、会社の議事録などの証拠書類を全て残していました。
弟や妹については、会社への関与が全くなく、父から存命中に受けている贈与も父の言うままに引き受けていました。しかし、父の相続時に、自社株の評価が高額であることを知ってから、自らが株主であることへの意識が生まれています。弟は決算書の閲覧を求めたり、株主総会において反対意見を主張したりして、私の意思が通らない場合も出てきました。そして、妹は自分の子供を医大に進学させるための資金を作るため、高額で自社株を買い取ってほしいと言い始めており、私1人が買い取るのは難しく、一部を会社で金庫株で買い取りました。会社法において、金庫株で買い取る場合は、他の株主にも買取価格を通知しなければならなかったようで、そんなに高額で買い取ってもらえるならば自分もと次から次へと元役員が手を挙げてきてしまいました。株式の分散により、父の相続税の負担をその時点では軽くできたかもしれませんが、高額で買い取るよう求められればそれ以上にコストがかかりますし、分散してしまった株を買い集めるのは相手のあることですので大変苦労しています。株式の分散によって後継者の世代で問題が発生することは、珍しくないのでしょうか?
A.
持株比率と株主の主な権利の関係は、次のとおりです。
○1株以上…議決権、利益配当請求権、残余財産請求権、株主代表訴訟提起権
○1%以上…総会提案権
○3%以上…総会招集権、帳簿謄写閲覧権
○10%以上…解散請求権
○3分の1超…株主総会特別決議の否決(拒否権)
○2分の1超…株主総会普通決議の可決(取締役・監査役の選任等)
○3分の2以上…株主総会特別決議の可決(取締役・監査役の即時解任、合併、定款変更、株式移転、株式交換、会社分割、金庫株、第三者割当増資等)
ご質問のケースにおいては、先代で株式を分散したことにより、後継者であるご質問者の経営の意思決定を思ったように反映させることが容易ではなくなってしまい、株式を買い集めるのに苦労しなければならなくなりました。親族から株を買い取ることについては、売り手もかいても相続税評価額(原則的評価額)から、場合によっては時価による買取が民事的に、また税務においても想定されることが多いといえます。少数株主より高額で買い取るよう求められれば、必ずしも配当還元価額とはいかず、会社の純資産の価額を基準として求められる場合があり、また、金庫株によって自社が株の買取を行うのであれば、株主全てにその価格を通知する必要があります。
事業承継に関する問題の一つとして、株主の分散が挙げられます。オーナーの相続税対策として一時的には有効であっても、将来的に後継者の世代でいろいろな問題が発生する場合が少なくありません。分散してしまった株式を買い集めることで後継者が労力を費やしているという相談を受けることがしばしばあります。株式の分散による主たる問題点は、経営の安定化が阻まれることと、株式の高額買取を求められることです。この2点について、以下に述べます。
株式の分散で、議決権が分散することにより、後継者の意思決定が妨げられ、経営の安定化が難しくなります。少なくとも普通議決権の2分の1超を確保、可能であれば特別議決権の3分の2以上を確保していくことが、後継者の経営権安定化を図るためには必要となります。また、社外株主については、議決権の3分の1超を保有させず、特別決議に対して拒否できないようにして、後継者に承継させることが重要です。そして、1株以上なら株主代表訴訟提起権を、3%以上なら帳簿謄写閲覧権を有するなど、少数株主であっても、ある程度強い権利を有しています。分散した相手に相続が発生すれば、次世代の相続人に株式が自然承継されてしまい、長い間放置しておくと株主と連絡がつかず、株式を買い集めようとしても困難となる場合も少なくありませんので、迅速な対応が必要です。
また、買取ができた場合にも、その価額が重要です。親族から買取を求められるケースの他、会社に無関係な他人からドライに高額な価格での買取を求められるケースも考えられます。好ましくない株主に株式が相続される場合に会社が強制的に買い取る旨を、会社の定款に定めることも可能です。しかし、このように規定するためには、株主総会の特別決議を経て定款を変更しなければなりません。このようなに規定できた場合にも、相手のあることですので、買取価格の問題は最後まで残ります。この他、株式併合や種類株式を用いた強制買取の方法も存在するものの、いずれも買取価格の問題は付きまとうことから、専門家にも相談の上、さまざまな対策を考えつつ、慎重に進めていかなければなりません。手間や時間がかかることから、自社株の分散はできるだけ避けながら承継を行っていくことが重要です。