自社株等の所有権を、後継者にどのようにして移せばいいでしょうか?
「生前贈与」・「親子間売買」・「相続」の3つの移し方があります。どの移し方を選ぶかによってかかる税金が異なりますので、できるだけ早めの検討と対策が必要です。
1.知っておかなければならない“税金”のこと
事業承継のためには、税金のことも知っておくことが必要です。優良な非上場会社の株式評価額は、思った以上に高額となっていて相続税が高いということが想定されます。相続税の最高税率が50%であることから、“相続が3代続くと財産がなくなる”としばしばいわれます。ただし、これは生前に対策を何も行わなかった場合のことであり、早めの対策を行うことによって財産をより多く残すことができます。相続税が原因で会社を潰さないようにするためにも、早めの対策を行いましょう。
その対策の一つとして、後継者に自社株や事業用資産の所有権を移転するという方法があります。移し方には主として次の3つがあり、それぞれかかる税金の種類が異なります。
生前贈与:贈与税が課せられます(税率10~50%)。
親子間売買:譲渡所得税・住民税が課せられます(原則税率20%)。
相続:相続税が課せられます(税率10~50%)。
2.自社株の移し方のポイント
生前贈与・親子間売買・相続という自社株の移し方を考える上でのポイントは、次の通りです。
(1)生前贈与
贈与は、「相続税の負担」と「贈与税の負担」とのバランスを考えた上で実行しなければなりません。また、生前贈与には「暦年課税制度」による贈与と「相続時精算課税制度」による贈与の方法があります。事業承継を考えた場合には、将来の値上がりが予想される自社株については相続時精算課税制度を選択すれば、税金上の効果が大きく得られることがあります。
ただし、生前贈与は、特別受益として遺留分減殺請求の対象となりますから、後継者以外の子供に対しては、その他の財産を手当てするというような配慮を行うことが必要です。
生前贈与のメリット:後継者は贈与税の資金調達だけで済みます。
生前贈与のデメリット:生前贈与は、特別受益として遺留分減殺請求の対象となります。
(2)親子間売買
親子間売買は、適正価格で行われれば、生前贈与のように遺留分減殺請求の対象とはなることはありませんので、その意味での親族間の争いは避けることができます。
しかし、売買には購入資金が必要となります。親子間では相続税評価額で売買する場合が多く、その場合、後継者に相続税評価額相当の手持ち資金がないときは、その資金を調達する必要があります。
また、売却側であるオーナーにとっては、取得価額よりも売却価額が大きいなら、売却益に対し、原則として20%の譲渡税(所得税15%・住民税5%)がかかります。
親子間売買のメリット:適正価額での売買なら、遺留分減殺請求の対象となりません。
親子間売買のデメリット:後継者は、株式の購入資金を調達する必要があります。
(3)相続
相続での取得の場合、遺言書等によって後継者に自社株や事業用資産を相続させる旨を決めておかない限り、遺産分割協議が必要となって、後継者以外の相続人にもこれらの資産を取得する権利が生じてしまいます。したがって、この場合には、遺留分を考慮した上で遺言書を作成することが望ましいといえます。
なお、相続税の税率は、最高50%の超過累進税率になりますので、ご自身の相続税をきちんと認識した上で、生前贈与・親子間売買・相続のうちのどの方法が税金上、有利なのかを把握しておかなければなりません。
相続のメリット:遺産総額が相続税の基礎控除額以下であれば、税負担なく取得できます。
相続のデメリット:遺言がなければ、遺産分割協議成立まで株主が確定しませんので、株主総会の運営に支障をきたす可能性があります。また、遺言がなければ、経営に関与していない相続人に株式が分散し、後継者が安定した経営権を確保できない可能性があります。さらに、相続が開始した日の直前期の決算数値を基に株価が計算されますので、直前期の業績がよかった場合、株価が高く計算されて相続税の負担が重くなることがあります。
3.自社株の評価額が一番低いときに移すのがポイント
自社株の評価額は、そのときの会社の業績や過去の利益の蓄積(純資産額)によって大きく違ってき
ます。すなわち、移転する時期により評価額が大きく異なりますので、なるべく自社株の評価額が低
い時期に移すことが大切です。例えば、オーナーの引退に伴って退職金を支給する場合、退職金相当
額の利益が圧縮されることによって通常株価は低くなり、自社株を後継者に移す絶好の機会となりま
す。
4.納税資金を考えた対策
もう一つのポイントは、将来オーナーに万一のことがあった場合に、相続税を払えるか否かです。
相続税は、原則として現金で一括納付することになっています。自社株は一般的に換金性がないので、
いかにして相続税の納税資金を捻出するかがポイントになります。納税資金が不足するなら、会社が
自社株を買取ることや、物納・延納等も視野に入れて考える必要があります。